INTERVIEW
国際ビジネスにおける新興成長市場
私の専門は、国際ビジネスとマネジメントです。マネジメント分野には、国際ビジネスにおける戦略的人的資源管理という研究分野があり、私は国際戦略的人的資源管理と呼んでいます。これは私の博士課程における最初の研究トピックです。研究内容は基本的に、国際ビジネスにおける人的資源と戦略の相互作用に関して構築・提案された動的モデルに重きを置いていました。この研究を経て、より大きく広い観点からマネジメントとビジネスに関心を抱くようになり、博士号取得以降の研究や指導は、人的資源から戦略ならびに国際ビジネスへ重点がシフトしていき、主にそれらに関する研究論文を発表してきました。というのも、私自身、多国籍企業で働いていたことがあり、多国籍企業の本社や子会社が国際ビジネスでどのようにして業績を向上させることができるのかに関心があったからです。さらに、私は国際ビジネス環境における新興成長市場の研究に取り組んでいます。なぜなら、国際ビジネスにおいて、新興成長市場には大きなビジネスチャンスが広がっているからです。数年前の中国は経済成長率が10%、12%に達しました。また 、インドをはじめとする他の多くの国でも7%から8%に届く勢いです。新興成長市場では、このような数字が簡単に達成されてしまうのです。ビジネスの観点から言えば、成長率が高ければ高いほど、それだけ多くのチャンスが生まれます。その理由は、市場の数が多く、しかも多くの産業が未発達だからです。いち早くそれらの市場のいずれかへ参入し、市場シェアを獲得してリーダーになれば、その市場を開拓・発展させ、消費者動向を刺激することもできます。このように、国際ビジネスにおける新興成長市場の存在は非常に魅力的です。しかしながら、理論展開においては、過去10年間でわずか30%程度の水準にとどまっており、いまだ大きなギャップがあります。一方で戦略と人材との相互作用(知識とラーニングイノベーションに重点がおかれ)があり、他方で新興成長市場というテーマがあり、これら二つの要素を組み合わせると非常に興味深いものが見えてきます。
父親とビジネス好景気の中国に影響を受けて
研究分野にマネジメントを選択したのは、父の影響が大きいと思います。父は某企業の経営幹部チームに所属する共同経営者で、父が仕事をする姿を見ながら、私は企業経営というものに関心を抱くようになりました。これが、経営管理学を選択した一つの理由です。もう一つの理由は、中国の事情に関係しています。1990年代の初め、鄧小平の改革開放政策の下、市場経済への移行が推進され、ビジネスを奨励し始めました。今もなお中国ではその状況が続いています。好景気時代の到来を感じ、誰もが事業を行っていました。しかし、当時の中国において経営管理とか企業経営というのはまだ新しい概念であり、人々はそれまで経験してきた計画経済から市場経済へどのように移行したらいいのか分かっていませんでした。民間経済の経営概念や事業概念などは当時でも既にありましたが、それほど明瞭なものではなく、計画経済時代の古いスタイルがまだ残っていました。それは新たな流行のようなものでした。仕事に関しては、あらゆるものに大きな需要があったので、基本的に誰でも職に就くことができました。私の周りには、起業家精神にあふれ、独自で事業を行う人がたくさんいて、私はその影響を受け、大学1年のときには友人や慈善団体と一緒に事業活動を行っていました。これは私にとって素晴らしい経験でした。その後、私は勉学を続けることに決め、ESADEでMBAを取得しました。そして、多国籍企業で働いた後、サイモン・ドーラン博士の下でマネジメントとビジネスについての研究を始めました。
日本、そして国際大学との出会い
国際大学での職に就く前は、スペインの大学で常勤教授として9年間働いていました。私は、野中郁次郎教授が立ち上げたCenter of Knowledge and Innovationという研究所の責任者をしていました。戦略の研究範囲を知識とイノベーションに絞り込むことに私が大きな関心を持つようになったのは、野中教授と知り合いになってからです。というのも、知識管理とイノベーションは現在、戦略研究における重要なテーマであり、イノベーションによって企業がどのように改善されるのか、また、それが最終的な企業業績にどのように貢献するかについて研究を進めることができるからです。これは、私の研究分野に大きな影響をもたらしました。スペインの某多国籍企業で働いていた時期に、私は多くの日本人企業幹部たちに出会いました。また、中国やアジアでも仕事をしたことがありますが、そこにも多くの日本企業が進出していたので、私は日本から来ていたたくさんの人たちと知り合いになりました。彼らとの出会いを通じて、私はこの日本という国に魅了されました。それ以前にも休暇で日本を訪れたことがあり、そこで体験したことはすべてが興味深く、素晴らしいものでした。このような経緯もあって、かつて共同研究を行ったこともある国際大学のことをもっと知りたくなり、実際に大学を訪問してセミナーを開きました。それは3月末頃で、1ヵ月間雪が降り続いたのごとく、地面にはまだ雪が1メートルほど積もっていました。その景色はとても美しく澄んでいて、私には非常に印象的でした。この美しく、しかも高度な国際教育や研究の行える環境に大いに触発され、私は国際大学で働く決意を固めたのです。
研究者にとって国際大学の魅力とは
私は緑に包まれた国際大学の環境が気に入っています。研究というストレスの多い仕事に適した環境でしょう。研究でストレスを感じるとき、私は自然と触れ合う時間を持つように心がけています。少し散歩するだけで、ストレスから解放される緑豊かな環境は研究に理想的だと思います。もう一つの大きな魅力は、約60ヵ国・地域の人々がここに集まっているという多様性です。これほど多くの国・地域の人々と一度に会えるというチャンスはなかなかありません。特に国際ビジネスの研究をしている私にとって、これは非常に魅力的なことです。私の研究対象の1つは新興成長市場ですが、そうした新興成長市場の地域からも多くの学生が来ています。中には、政府機関、公共団体、民間企業における長年の経験を積んだ専門家もいます。このため、私にとっても多くのことを学べる良い機会であり、非常に素晴らしい環境だと感じています。
ライフワークとなるテーマに出会うこと
将来博士号を取得するのに役立つような修士論文を書くにはどうすればよいかということで、私にアドバイスを求めに来る学生たちもいます。そのようなとき、私はしばしば「なぜ博士号を取りたいのですか」と彼らに問いかけ、まず彼らの真意について尋ねます。博士号取得の動機が必ずしも調査研究を行うことに関心があるからというわけではない学生もいます。まだ何かを模索している学生もいれば、自己発見の途上という場合もあるでしょう。しかし、真の動機が研究ではないことに気付いたとしても、頑張って博士号を取得して下さい。その後で、本当に自分が望むことを見つければいいのです。もし本当に研究に興味があるならなおよろしいと思います。とにかく最初にすべきことは、動機は何か、何に興味があるのか、何について研究をしたいのかを自分なりに見出すことです。私は、学生自らが興味を持つものをさらに研究するよう奨励しています。そして、彼ら自身が生涯を通じて研究したいと思えるようなテーマを見つける一助になれば幸いです。何らかの目標があれば、生涯をかけてそこに向かって進んでいくことができるのです。
PROFILE
Yingying Zhang Zhang 教授 [担当科目]全社戦略、ジェネラル・マネジメント、超国籍企業経営論 [研究分野] 国際戦略的人材管理 [研究キーワード] International business, Cultural value, Organizational learning, Knowledge and innovation, Chinese management, Gender management, Emerging market, Strategic human resource management